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個人的に面白そうな論文のまとめ
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クォーク4つと反クォーク1つからなるペンタクォークは理論的には存在可能とされている。Diakonov, Petrov, and Polyakovの計算により、Θ+バリオンと呼ばれるuudds~の組み合わせのペンタクォークの性質が予想されている。(ここでは反クォークは末尾に「~」をつけて表記する。)予想される質量は1530MeVで、崩壊幅は15MeV以下。さらに中性子とK+中間子、もしくは陽子とK0中間子に崩壊するとされる。さらに最近の研究では崩壊幅が1MeV以下と示唆される。

今回、ロシア・モスクワのDIANA実験で、以前よりデータ量を増やし、再解析を行った結果、1540MeV付近での狭い共鳴の存在の、より確固な証拠が得られたとしている。だが2009年度のParticle Data Group (pentaquarks)によれば、様々なエネルギー領域でペンタクォークの探索が行われたが、追認されるには至っていない。DIANA Collaborationによると、追認されない理由は、Θ+バリオンの崩壊幅があまりにも小さいため、断面積も非常に小さいことから、検出が非常に難しいからだとしている。

DIANA測定器は液体キセノンで満たした泡箱でできている。外部からの磁場は無し。モスクワITEPの陽子(10GeV)から生成されるK+中間子(850MeV)のビームが入射される。K+中間子は泡箱内でキセノン原子核と衝突を繰り返し、およそ700MeV以下の様々なエネルギーでの反応が観測可能。その様子を写真で取ってフィルムに記録する。

事象の再構築は陽子pと、K0中間子の質量固有状態のK_Sによって行われる。K_Sはpi+とpi-に崩壊するモードで再構成。フィルムの記録では55,000個のK_S -> pi+ pi- が識別された。陽子の飛跡はどうやって識別されたか論文には書かれていないようだが、恐らく崩壊しない真っ直ぐな飛跡を陽子と扱うのだろう。

解析は陽子とK_Sの4元ベクトルを足して、p-K_Sシステムの不変質量m(pK_S)を計算する。次にMonte-Carloシミュレーションで予測されるm(pK_S)を引き算すると、きれいなピークが現れるようだ。(尚、シミュレーションにはΘ+は含まない。)色々とカットをかけてピークの形に影響がないことを確認。これをフィットする。その結果、信号有意性6シグマほどのシグナルが得られた。また、シグナルとバックグラウンドの比から、崩壊幅も得られた。
  • 質量 1538±2 MeV
  • 崩壊幅 0.39±0.10 MeV (シミュレーションモデルの統計誤差は含まず)
統計誤差の評価のまとめが論文に含まれていないのがやや気になる。

元の論文:arxiv.org/abs/0909.4183
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地球上空の成層圏では宇宙線が大気中の物質と衝突し、高エネルギーのパイ中間子やK中間子が生成される。これらの中間子は(1)ハドロン相互作用により低エネルギーの中間子や核子(陽子・中性子)に変わるか、(2)高エネルギーのミュー粒子に崩壊する。ミュー粒子自体も不安定で崩壊するが、光速に近いスピード(=高エネルギー)を持つものは地表に到達する。低エネルギーのミューオンは特殊相対論の時間遅延の恩恵を受けられず、地表に到達する前に崩壊してしまう。

今回これらのミュー粒子を観測し、地表に達するミュー粒子のレートが季節変動することを、MINOS実験で確かめられた。

季節変動は上空気温の変化に起因する。気温が上昇すれば、大気分子の運動エネルギー増加により、大気の密度が減少する。密度が減少すれば、ハドロン相互作用の頻度が減少し、より多くの中間子が高エネルギーを保った状態でミュー粒子に崩壊する。結果的に地表でより多くのミュー粒子が観測できる。

MINOS実験は、アメリカ・ミネソタ州スーダン鉱山にある測定器を使い、ミュー粒子のレートを5年間計りつづけた。そしてミュー粒子のレートのデータを1日ごとに並べてみたところ、年間平均に対して夏と冬の差が4%ほどあることを発見。(8月に最大になり、2月に最小になる。)


上空気温の温度変化も似たようなパターンを描く。

(この研究には直接関係ないようだが、赤色の斜線部分は測定器内の磁場を反転させている。正電荷の粒子と負電荷の粒子は、磁場の影響で測定器内で別の場所に到達する為、磁場を逆転させることにより正負の粒子の分布を逆にすることでき、正負の違いを見たいときにセンサーの位置による系統誤差を減らすことができる。)

そして
  • レートの変化ΔRをレートRで割った割合と
  • 上空気温の変化ΔTを上空気温Tで割った割合
が比例することが分かった(線形近似)。その比例係数は
  • α(T) = 0.874 ± 0.009 (統計誤差) ±0.010 (系統誤差)
と求められた。

またこの数字は素粒子理論から計算することも可能で、パイ中間子とK中間子でその値が違う。これを用い、今回計測された数字から、上空で生成されるパイ中間子とK中間子の比率が求めることが可能で、今回は
  • K中間子/π中間子 = 0.13 ± 0.08
と求められた。この結果は加速実験による値と一致する。

元の論文 http://arxiv.org/abs/0909.4012


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